ピレネーへの旅

ピレネー スペイン側の村
ルルドの街


 女房の口にガムテープを貼りたい、と思ったことのある亭主は世界中ごまんといるにちがいない。クラブを結成すれば、あっという間に世界最大の組織になるだろう。私も潜在会員の一人だ。私の妻は、ことに食事と車の運転中にガムテープの誘惑を思い出させるのがうまい。野菜を食べなきゃだめよ、そんなに卵を食べたらコレステロールが上がるわ、その道は左よ、そんなにスピードを出さないで、カメみたいにノロノロ走らないでちょうだい。
 コレステロールについては妥協できるとしても、車の運転中にあれこれいわれると危険なこともある。運転は瞬間的な判断を必要とする。その瞬間に言葉をはさまれると、判断を誤ることもあるからだ。左に行こうと思ったとたん、右、といわれたらそれが判断に影響を与えて思わぬ結果になることもある。そのときがそうだった。車はY字路に差し掛かっていた。左へ行こうとしたとき、右よ、と妻がいった。混乱した判断の中で車は直進し、ブレーキのタイミングも少し遅れ、ロータリーの低い縁石に乗り上げて停まった。タイヤからホイールキャップが外れ、ガラガラと音を立てて道を転がっていった。
右って?
バカ